「Mommy/マミー」はグザヴィエ・ドラン監督による2014年公開の映画。
あらすじ
とある世界のカナダでは、2015年の連邦選挙で新政権が成立。
2ヶ月後、内閣はS18法案を提出する。
公共医療政策の改正がその目的である。
特に議論を呼んだのはS-14法案である。
“発達障害児の親が経済的困難や身体的や精神的な危機に陥った場合は、法的手続きなしで入院させる権利を保証”
ダイアン・デュプレは息子のいる更生施設から電話で呼び出される。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)の息子スティーヴは、問題を起こし施設に入っていたが、放火事件で他の入所者に大怪我をさせたことで、滞在を拒否されたのだった。
夫に先立たれたあと、翻訳の仕事でなんとか暮らしてきた。
生活に余裕のないダイアンに、職員はS-14法案の適用をすすめるが、彼女はそれを拒否し息子を引き取ることを決意する。
【予告編動画】
グザヴィエ・ドラン監督が描く人間ドラマ!映画『Mommy/マミー』予告編 - YouTube
曲はOneRepublicの「Counting Stars」
“愛と希望、どちらを捨てるか”
施設の職員がダイアンにかける印象的な言葉がある。
愛だけでは救えない
愛情の問題ではないのです
多くの入所者たちを見てきた職員たちも、スティーヴには手を焼いていた。
そしてついに限界を迎えたのだった。
ダイアンは模範的な人物ではない。
奔放に生き、どちらかというとだめな大人だ。
転居し、スティーヴとの新しい生活を始めるのと同時に車も職も失った。
残されたのは母親としての愛情くらいだろうか。
それも、コミュニケーションに問題を抱えるもので、相手が何をするかわからないという恐怖をともなうものである。
本作で共感できる部分があるとすれば、介護の問題に似ているという点ではないか。
施設に入れたくない、家族として一緒に暮らしたいという考えは心情的には理解できるのだが、家族だけで解決するのは限界がある。
僕には愛が足りないの?
私たちには、愛しかないでしょ
予告では、“愛と希望、どちらを捨てるか。”とあるが、彼らはどちらも捨ててはいない。
むしろ両方を持っているからこその選択だ。
テーマは重いが、監督の見せ方が面白い。
画面の幅で心理状態を表したり、音楽で説明したり。
アスペクト比1:1の画角で閉塞的な世界を描いていたところから、スティーヴが自らの手で世界を広げる演出がよかった。
かかっている曲がOasisの「Wonderwall」なのもにくい。
氷風呂から上がったスティーヴが、両頬を叩いて叫ぶシーンは「ホーム・アローン」のケヴィンを思い出させるし、ショッピングカートで走るシーンは「マイ・フレンド・フォーエバー」のようだ。
主な登場人物は親子と、向かいに住む心因性の発語障害で休職している教師カイラの三人というこれまた狭さを感じさせるもの。
この三人の演技力が高くて、自然に引き込まれていく。
だめな大人であったはずのダイアンが、終わってみれば魅力的な女性に見えてくる。
彼女は息子の未来の姿を想像する。
学校を卒業し、やがて大人になり、幸せな結婚をする。
この将来の映像が、先の方になるにつれ不鮮明なものになっていく。
こんな未来は来るだろうか。
残されたわずかな希望に、それでも前を向いて生きていく。
最後のダイアンのセリフは、ドラン監督自身が語ったことのあるメッセージでもある。
あとがき
グザヴィエ・ドラン監督の作品は今回が初鑑賞。
周りの評価が高いのも納得の内容であった。
同じようにまだ観たことのない人のために、特典映像として「グザヴィエ・ドランのスタイル」と題した10分ほどのドキュメンタリーが付いている。
どれから観るか迷ったら本作から観てみてはどうだろうか。
音楽はエンドロールで流れていたラナ・デル・レイ(Lana Del Rey)の「Born to Die」が気に入った。
原題:Mommy
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:アントワン=オリヴィエ・ピロン / アンヌ・ドルヴァル / スザンヌ・クレマン / パトリック・ユアール / アレクサンドル・ゴイエット