
「はじめてのひと」は谷川史子による漫画作品。
いろいろなはじめてを詰め込んだ連作短編集になっている。
月刊ココハナで連載中。
おとなになっても、たくさんの“はじめて”がある。
はじめて好きになったひと はじめて憎んだひと はじめて執着したひと はじめて私を傷つけたひと はじめて私を愛してくれたひと
みずみずしい気持ちを描いた読みきりシリーズ、刊行開始!!(はじめてのひと 1|集英社マンガネットより)
博物館で働いている田中久緒には、付き合って3年になる恋人がいる。
週末の時間を一緒に過ごす、そんな日々をこのまま続けていければいい。
お互いに30代を迎え、そろそろ話を切り出す雰囲気になったりもするが、彼女はそれを避けてきた。
高校生の時、つきあった相手がいた。
久緒にとって初めての人であるが、それが恋ではなく、早く大人になりたいためであった事が今も彼女を苦しめている。

愛情というものを粗末にした、そんな自分が相手をちゃんと愛せているのだろうか。
そんな思いから、結婚に踏み切ることが出来ない。
シリアスな題材で始まる1話は、本作のタイトルから最もイメージされるであろう事について描かれている。
10代の頃の初めての相手が、心から好きな人であったか、いちばん大切な人であったか、自信を持ってそう言える人はどのくらいいるのだろうか。
アラサーになり、結婚をためらうほどの心の傷として残るというのは、男性の立場からすれば想像しにくいというか想像するしかない繊細な感情であると思う。
現在の恋人を大切に思うからこそ、今になって出てきたものなのかもしれない。
彼女の恋人である進之介は難しい対応を迫られるのだが、そこが見どころになってくる。
次に登場するのは、久緒の働く博物館の仕事つながりで、デザイナーの鳥野とその恋人のOL目黒香菜。
彼女は、鳥野のことが好きすぎるようだ。

ものすごく好きなようだ。
とても微笑ましいのだが、その温度差に悩むこともある。
相手の態度がそっけなく感じて、愛されているのか不安になったりするのだ。
香菜の姉と思われる浜島理香は予備校の講師をしているが、友人を引きあわせたところ、二人が想像以上に意気投合してしまい悶々とする。

自分が参加していない交流の出来事もいちいち報告が来て、嫉妬を抑えられないことに悩むのだった。
個人的に一番気になっているのは、4話の登場人物。
これだけが続きもの。
久緒の大学の後輩で絵画修復の仕事をしていて、職場が隣の建物という橘与(たちばな くみ)。
久緒が鳥野に誘われた知人のライブに、欠員が出たために彼女が誘われる。
彼女は、出演者であったチェリストの諏訪内に徐々に惹かれていく。

最初は、楽しかったから次のライブもいいかなって感じで、営業活動だよねって認識だったんだけれど。
人懐っこい笑顔や、大きな手や、この言動に、次第に存在を意識していく。
相手は一回り以上も年上で、子供扱いされているようなところもあるのだが、大事にされていることがうれしくて、やがて恋に変わっていくのだった。

その過程での彼女の様子がかわいい。
このままうまくいくなら、それはそれでいいのだが、諏訪内が一人になった時に見せた表情であれっ?となる瞬間がある。
このへんの描写がうまい。
そういえば、彼が独身だという言及がどこにもないぞ、と。
ちょっと待てよ、となったところで2巻に続くのである。
あとがき
最初に表紙を見た時にはそんなに惹かれなかったんだけど、読んでみたらとても好みの作品だった。
さすがの安定感。
そして2巻が超絶気になっている。(Kindle版は6月23日発売)
作風からして後味の悪いことはないとは思うんだけどね。
どうなるの?