「応天の門」は灰原薬による漫画作品。
平安京を舞台に在原業平と菅原道真のコンビが、都で起こる事件に挑むミステリー第2巻。
引きこもり文章生の菅原道真は、京随一の色男・在原業平に巻き込まれ都で起こる怪異を調べることに。ふたつの事件を解決した彼らのもとに、今度は、藤原家の姫・高子から怪事件が持ち込まれ……!?
貴族の子弟のための教育機関、大学寮。
学生である菅原道真は、得業生の試験に向け今まで以上に引きこもっていた。
それでも相変わらず、在原業平や紀長谷雄によって問題が持ち込まれてくる。
怨霊出づる書の事
大学寮には唐から運ばれた新しい書物が多くあり、学生たちはその書物を使って学ぶことができる。
そこで教鞭をとる文章博士、橘広相(たちばなのひろみ)は、道真の師のひとり。
夜に開くと物の怪が出ると言われ、写本の作業が進まない書の話を聞かされた道真は、自ら写本を引き受ける。
物の怪が出るのは決まって夜との噂で、昼のうちに写してしまえばすぐに終わりそうなのだが、一向に進まないのは皆あえて夜に試したのだろうか。
道真も性格上、昼のうちに済ませておくなどとは考えない。
非科学的なことなど信じない彼は、真相を確かめるべく暗くなってから机に向かう。
藤原高子屋敷に怪の現れたる事
藤原氏の勢いは留まるところを知らず、宮中の要職に血縁者を送り込んでいた。
この時代、藤原良房が台頭し、権力の座を伴善男と争っていた。 清和天皇はまだ若く、良房は姪の高子を入内させようと画策し、善男は藤原家とは縁のない姫を立てて牽制しようと企む。
「応天の門」(灰原薬)在原業平と菅原道真が都の謎に挑む - 午前3時の太陽
藤原高子の入内は藤原氏にとっては悲願とも言える。
清和天皇が16歳になるまでの間、屋敷に軟禁状態となっていた。
藤原氏の年頃の娘が他にいなかったためと、見目麗しく聡明な彼女を推しやすかったためであろうか。
前巻で在原業平とかつて恋仲であったことが示唆されるが、この巻で当時の様子を伊勢物語の芥川の段として描いたシーンがある。
驚いたのは年齢である。
数年前くらいかと思っていたが、業平の守備範囲の広さよ。
その高子の屋敷に物の怪が現れた。
良房が見過ごすはずもなく、警護が厳重になり高子は一層不自由な身に。
そこで送り込まれたのが白梅。
漢文の素養があり、菅原家の書庫の管理を任されている侍女。
白梅を通じて高子と道真の対面が叶うが、彼女の前では道真もたじたじであった。
ちなみに高子は通常「たかいこ」と読むが、本作では「たかこ」と読ませている。
この時代の女性名は複雑なようだ。
実は平安時代の女性の名前は、一部を除いてよくわかっていません。本名を音読する機会がほとんどなかったからなのです。しかもわかっているのが、藤原良房の娘で、文徳天皇の妃、藤原明子の「あきらけいこ」、その子の清和天皇の妃になった藤原高子の「たかいこ」など、なかなか普通ではない読み方なのです。
鏡売るものぐるいの事
都の物売りから鏡を買った長谷雄。
道真の見立てでは、対価に不相応なほど価値のあるものだった。
事情に詳しい昭姫に確認すると、市場には出回るはずのない品。
物売りの姿を探しだすと、見るからに体調の悪そうな男だった。
菅原家の過去を垣間見る話。
大学寮にあった物の怪の書で、兄の幻をみた道真であったが、彼には現在兄はいない。
菅三殿などと呼ばれてはいるが、嫡男であり、家のものは誰もその話題に触れたくない様子。
父の是善も鷹を大事にしているが、狩りには強い拒否反応を示していた。
このあたりに秘密があるようだ。
幼かった道真の記憶の底に眠っている兄の姿。
徐々に明らかになるのかもしれない。
今回表紙で目立っている割に影は薄い在原業平とともに次巻に期待。