
「さよなら私のクラマー」は新川直司による漫画作品。
月刊少年マガジンで2016年5月より連載を開始した。
30話は、インターリーグ準決勝の栄泉船橋戦がついに決着。
前回はこちら。
激戦終結
同点で迎えた後半終了間際、蕨青南のカウンターでゴールに迫る田勢のパスで恩田がシュート、と誰もが思った。
守備に戻った浦川と岐部の二人がかりでコースを潰したはずだったが、恩田が選んだのはスルーである。

国府の考えたように1点目を伏線にしたかどうかはわからないが、シュート体制に入ってからの切り替えで、相手チームも完全に裏をかかれる形となった。
そこにきっちり合わせてくるのはさすが曽志崎。
激戦だった試合の決勝点となるか。

残りわずかな時間でも、国府を起点として得点に結びつける力があることは前半で実証済みである。
最後まで気は抜けない。
実際にゴール前で彼女にボールが渡るのを許してしまうなど決定的なピンチもやって来ていた。
千葉王者としての意地、日本一を目指すチームの絶対的エースの行く手を阻んだのは、この選手。

今回マン・オブ・ザ・マッチ級の働きだろうね。
数々の強豪を破ってきた攻撃を、この試合がデビュー戦の初心者が幾度となく止めて見せたことは、蕨青南にとって大きな収穫となったはずだ。
それもまぐれではなく、越前本人の努力と観察眼による実力の結果だというのも頼もしい。
トラップやキックは下手くそだが、相手の動きや攻撃の流れを予測して絶妙な位置取りをするのである。
これでボールの扱いを身に付ければ心強い存在となってくれるに違いない。

だがそのプレッシャーが半端ない大きさであった事は試合後の彼女の姿からも見て取れる。
喜びと同時に、むしろそれ以上に感じたのはチームの一員として与えられた仕事を全うした安堵感だったようだ。
無理もない。
それでも彼女のプレーは見るものを熱くさせてくれるものを持っていた。
深津監督も思わず拳を握るくらいに。
ここぞという時に、何とかしてくれそうな期待は初心者離れしている。
危なっかしさも同時にあるからなのかもしれないが。

栄泉船橋も、この試合で終わりではない。
深津監督も指摘していたが、最後の土壇場でチームより個人を優先させた場面があった。
国府の突破からの打開にこだわった点である。
いずれ彼女たちが率いるとき、今より攻撃的なチームになっている未来を想定しての選択であった。
おそらくは国府妙の入部から見据えてきた姿なのだろうね。
「あのコ達は、私達の夢です」と浦川キャプテンは言う。
理想のチームになる頃には自分たちはいないかもしれない。
それでも彼女たちが作り上げてきたものは生き続けている。
それでいいんだと。
再戦する頃にはさらに強敵になってそうだね。
あとがき
先月は単行本7巻が発売された。
表紙は29話の扉絵でも使われたものなのだけど、連載版では背景が懐かしい感じになっていた。