「姉なるもの」は飯田ぽち。による漫画作品。
孤独な少年の願ったものは、自分を必要としてくれる家族の存在。
それがたとえ人ではなかったとしても。
両親を事故で失い、親戚の家を転々とする孤独な少年・夕。
彼の前にある日突然、異形の美女が現れる。
「大事なものと引き換えに、あなたの望むままを与えましょう」
そういう彼女に夕は、姉になって欲しいと願うのだが――。
クトゥルフ神話の最果てで、姉弟の愛を描く。
蔵の地下で出会ったもの
一つのところに落ち着くことができなかった夕が現在お世話になっているのは、母の従弟にあたるおじさんの家。
他人に関心の無さそうな人で、これまで疎まれてきた少年にとっては、むしろありがたい存在かもしれない。
そのおじさんが突然入院することになった。
必要なものを準備するために、入ってはいけないと言われていた蔵の仕事部屋に入り込んだ夕は、それと出会う。
人ではない何か。
「千の仔孕む森の黒山羊」と名乗るそれは、夕に願い事を訊ねるのだった。
大事なものと引き換えに望むままを与えてくれる、契約の儀式である。
死を意識しながら、全てと引き換えに望むもの。
夕が本当に欲しかったもの。
よく言った。
これまで何をしたいか訊ねられたこともなかった夕にとっては、天使のような存在にも見えたようだ。
シュブ=ニグラスはクトゥルフ神話において豊穣の女神・母神ともいえるもののようだが、悪魔と呼ばれることのほうが多いであろう。
それでも家族を欲する夕の願いは強かった。
お姉ちゃんは悪魔
かくして新しい姉・千夜(ちよ)との生活がはじまるのだが、彼女の方もまんざらではない。
人間界の生活に慣れるように、姉らしく振る舞えるように、彼女なりに努力している様子がほほえましい。
ちょいちょい暴走するところはあるが、過保護な姉とのほのぼの生活といったところ。
初めてお姉ちゃんと呼ばれたときにはこの喜びようであった。
人に恐れられてきた存在である彼女にとって、誰かに必要とされるのはうれしいことなのかもしれない。
だから弟に危害を与えるものには容赦はない。
お姉ちゃん暴走モード。
そこは悪魔だからね。
気になるのは、本作が夕のモノローグで過去の出来事として語られる点だ。
この幸せな日々も長くは続かないことをほのめかしている。
蔵の地下において、彼女は既に描かれていた魔法陣から現れた。
おじさんの入院することになった原因にも絡んでいる可能性が高い。
そして、彼女は以前にも人の姿をとっていたことがあるらしい。
そのあたりのことは次の2巻以降に持ち越しになる。
とりあえずはこのお姉ちゃんとの日々の余韻を保ったままでいよう。
あとがき
この作者は成人向けの作品を書いていた人で、本作もそのうちの一つを一般向けに描き直したものらしい。
なのでところどころ、というか毎話お色気要素が入ってくる。
ただし一般向けなのでちょいエロ程度に抑えてはあるが。
ここ数日おすすめ枠に載せているんだけど、いつもより反応がよくてなるほどねと思っている。
装丁もきれいだし1巻は人気出そうだね。
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