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「まがいの器 〜古道具屋奇譚〜」(水木由真)神出鬼没の不思議な古道具屋・慈空堂をめぐる物語。

「まがいの器 〜古道具屋奇譚〜」は水木由真(みずき ゆま)による漫画作品。

2017年に月刊キスカにて集中連載された。

作者が過去に同人誌で発表していた慈空堂シリーズから『まがいの器』『時間幽霊』の2編と、新作を加えた7編の連作短編集である。

 

訪れる者に必要な時と場所を選んで現れるという、不思議な古道具屋・慈空堂をめぐる物語。 

街の片隅にひっそりとたたずむ古道具屋・慈空堂――。そこに並んだ商品は、全てその客に今、必要なモノである。古道具が見せる不思議な体験をご堪能れ!!! 表題作を含む珠玉の短編連作!! 古道具が繋ぐ人の絆の物語。

(「まがいの器 古道具屋奇譚|コミック|竹書房 -TAKESHOBO-」より)

収録作品は『まがいの器』『時間幽霊』『或るペン軸の生涯』『赤い石』『あなたしか見えない』『7月のノイズ』『Interview 〜ある古道具屋の物語〜』。

まがいの器

表題作は、訪問者の父が生前買い求めた一つの壺に秘められた謎にまつわるエピソード。

永田真人*1は、父の葬儀に向かう途中、探し続けていた古道具屋の入り口を発見する。

晩年の父はその店で購入した壺がとても気に入った様子で、日がな一日ながめては独り言をつぶやいていたという。

問題は、その日を前後して三千万円と母の形見の宝石が消え、取引に間に合わなくなってしまったこと。

返金を求め怒鳴り込んだ彼に、店主は骨壷となったそれを中身ごとなら応じると答えるのだった。

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「まがいの器 〜古道具屋奇譚〜」(水木由真)より、道具への思いを語る店主・音澄(ねずみ)
(「まがいの器 〜古道具屋奇譚〜」より)

唖然とする永田であったが、そのことが物にそれ以外の価値を見出していることも示している。

彼の父親がその壺に見た価値とは何だったのか。

それは永田唐十郎がまだ若かった頃に遡る…


「まがいの器」が単行本のタイトルとして発表された時は意外な気がしたが、ここでの店主の考え方はこの店の存在理由であり、シリーズを通して引き継がれていくので、最初のエピソードに持ってきたのも頷ける。

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「まがいの器 〜古道具屋奇譚〜」(水木由真)より、壺を売った理由
(「まがいの器 〜古道具屋奇譚〜」より)

一番好きな場面はここかな。

角度を変えてみれば、同じものでも違った見え方をすることがある。

不可解な行動でも、本を正せば誰かを思ってしたことかもしれないのだ。

意図通りに伝わるとは限らないけれど、時には拗れてしまったりすることもあるが、それはそれで味わい深いものかもしれない。

タイトルの経緯やデザインの変遷は作者のTwitterでも解説されている。

イラストは同人誌版「慈空堂へおいで」の表紙。

道具にまつわる人々の思い

店を訪れる人たちは、住む場所も時代も様々だが、共通しているのは彼らに今、必要なタイミングであったことである。

或るペン軸の生涯

デビュー前から20年間愛用しているペン軸を失くした漫画家の岬ヨシズミにとって、それは身体の一部であった。

長い時間をかけて自分の癖に合わせて擦り減った、使い慣れた道具は、それが無いと不安になるほどのもの。

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「まがいの器 〜古道具屋奇譚〜」(水木由真)より、欠けたペンがもたらすもの
(「まがいの器 〜古道具屋奇譚〜」より)

連載も打ち切りになり、再起を図ろうかという矢先の出来事に、途方に暮れるのだったが、それはまた未知の世界へ踏み出すきっかけになるだろうか。

あなたしか見えない

人形好きの曾祖母が特に大事にしている一体の人形には、秘密がある。

片方の目に、人間用の義眼が入っていること。

遠い昔、彼女の恋人であったガラス職人が使用していたものであった。

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「まがいの器 〜古道具屋奇譚〜」(水木由真)より、曾祖母と一緒に燃やされる人形
(「まがいの器 〜古道具屋奇譚〜」より)

神戸さくらは愛の執着の凄まじさを目の当たりにし、また同じ職人の手による作品を手に入れる運命にあった。

これは後日談が二段階で描かれているが、彼女の友人の最後の一言で救われる。

7月のノイズ

居場所がなくなったと感じた時、無条件で自分を受け入れてくれる人がいる。

そのことがうれしくて、ただそれだけだったのに、居心地の良さで距離感を間違えたのか。 

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「まがいの器 〜古道具屋奇譚〜」(水木由真)より、皆恋のよう
(「まがいの器 〜古道具屋奇譚〜」より)

本当に欲しい物は何なのか。

「自分の欲しいものの形を分からないままの人も多い」と店主は言うけれど、それは分かっても手に入れにくいものかもしれない。

文月真知がそれを手に入れるのはもう少し先のこと。

このエピソードで、慈空堂の小さな男の子・久真(くま)が背負っているクマのヌイグルミが外れている所が描かれるのだが、その正体もいずれ判明するのかな。 

前作、「くくりひめ」について 

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「くくりひめ」(姫野春、水木由真)1巻より、湯豆腐を囲む菊理・三門・紬
(「くくりひめ」1巻より) 

古より続く呪われた双子の巫女の伝説――新感覚の傑作怪異譚。神谷神社の見習い巫女、姫野菊理(くくり)には、11年前に生き別れになった双子の姉、九九里(くくり)がいた。双子の巫女の哀しい伝説に終止符を打つため一人、菊理は生まれ故郷の姫神村へと向かう――。

(「くくりひめ - 双葉社」より)

神谷神社に住み込みで働く巫女・菊理には不思議な力がある。

彼女の血に反応する、異界から現れる無数の白い手。

宮司の三門に保護されてからは穏やかな日々を過ごしていたが、双子の姉・九九里が現れた日から止まっていた時間が動き出す。

巫女さん×ツンデレ少女のダブル・ヒロインによる和風ファンタジー。

これ読んでから、うちでは湯豆腐率が上がりました。

全3巻。

あとがき

同人時代の頃からの集大成とも言える作品。

本作の後は、しばらく活動が抑えめになるとのことなのでゆっくり続編を待ちたい。

過去の作品は入手困難な様子。

「慈空堂へおいで」と「彼女と小さな白い犬」は取り寄せ中なので届いたら追記しようかと思う。

 

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*1:直人の表記もあるが、作者の手書き部分では真人となっている。


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